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世界の水産業は、すでに
「育てる」が主役になっている
養殖が世界生産の
約6割を占めた!
世界の水産物生産量は増加を続けていますが、その中身は大きく入れ替わりました。天然の漁獲量が1980年代後半以降ほぼ横ばいで推移する一方、養殖業の生産量は一貫して伸び続け、令和6(2024)年には養殖が世界の水産物生産全体の約6割を占めるまでになっています。
背景にあるのは需要の拡大です。中国、インド、ベトナムなどでコイ・フナ類に加えティラピア、バナメイエビ、ナマズ類といった多様な魚種の生産が広がり、人口増加に伴う需要拡大を受けて養殖は今後も成長が見込まれています。世界基準では「獲る漁業」から「育てる漁業」への移行が、すでに完了しつつあるということです。
日本は天然依存のまま、
生産量が縮んでいる
対して日本の状況はどうか。令和6(2024)年の漁業・養殖業生産量は約364万トンで、前年から約19万トン減少しました。内訳を見ると海面漁業が約279万トン、海面養殖業が約80万トン。(※1)依然として天然漁業の比率が高い構造です。
より示唆的なのは生産額の動きです。同じ年、海面漁業の生産額は約604億円減少した一方で、海面養殖業は約121億円増加して約6,077億円となりました。(※1)量も額も縮む天然漁業と、額を伸ばす養殖業。日本国内でも、すでに方向は分かれ始めています。
なお、この構造変化の背景には漁業の担い手そのものの減少という問題も横たわっています。そちらについては別記事で詳しく整理しています。
国も「養殖業の成長産業化」を
政策の柱に据えた
この流れは民間の判断だけで進んでいるものではありません。2026年6月に公表された令和7年度 水産白書は、特集として「養殖業の成長産業化に向けた対応」を掲げました。第1節のタイトルは「養殖技術立国の確立」です。
令和8年度の水産施策でも「増大するリスクも踏まえた水産業の成長産業化の実現」の柱に養殖業の成長産業化が明記され、大規模沖合養殖への転換支援、育種の推進、ICT・AIを活用した生産管理の高度化などが並びます。養殖は国策として後押しされる領域になったと言えます。
なぜ「養殖でなければ」
ならないのか
養殖の強みは
「4定」にある
養殖の価値は「魚が獲れないから育てる」という消極的な理由にとどまりません。水産白書は魚類養殖の特長を、定質・定量・定価格・定時の「4定」生産が可能である点にあると整理しています。品質が揃い、量が読め、価格が安定し、必要な時期に出せる。天然魚では原理的に約束できない条件です。
そしてこの4定は、量販店や外食産業から高い評価を受けていると白書は明記しています。売り場を計画的に組み立てたい小売、原価とメニューを固定したい外食。彼らが求めるのはまさに4定です。
ここが、卸売業が養殖に踏み込む理由の核心です。全国の量販店を取引先に持つ企業からすれば、4定を満たす商材を自ら確保できるかどうかは、提案力そのものを左右します。養殖は「代替手段」ではなく、顧客が最も欲しい条件を満たせる商材なのです。
ただし、養殖は
万能ではない
一方で、養殖にも固有のリスクがあります。近年顕在化しているのが海水温の上昇です。瀬戸内海のカキや陸奥湾のホタテガイでは大量へい死が発生し、政府が経営継続支援と中長期対策をまとめた政策パッケージを策定する事態になりました。
コスト面の課題もあります。魚類養殖では飼料が大きなコスト要因となりますが、主原料の魚粉は輸入依存。このため低魚粉飼料の開発や原料の国産化、昆虫や微細藻類を原料とする飼料の研究が進められています。生け簀の過密化による水質悪化や魚病、赤潮被害も避けられない課題です。
つまり養殖は、参入すれば安泰という事業ではありません。飼料の技術、生産管理のノウハウ、そしてリスクを吸収できる事業規模——この三つを備えて初めて、安定供給という価値を提供できます。だからこそ、この領域には本気の投資が必要になります。
マルイチ産商が
生産領域へ踏み込んだ理由
マルイチ産商は水産分野において養殖魚事業をコア事業のひとつに位置づけ、流通中心のビジネスから生産領域へと踏み込む戦略を打ち出しました。その意思を最も明確に示したのが、2024年の大型投資です。
111億円を投じた
ダイニチの完全子会社化
2024年11月1日、同社は養殖魚生産・加工大手である株式会社ダイニチ(愛媛県宇和島市)の全株式を取得し、完全子会社化しました。取得価額は111億4500万円。あわせて国内養殖事業専門の推進事業部を設立し、新規市場の開拓を進める体制を整えています。
ダイニチの規模は、直近実績で売上高262億円、営業利益14億6000万円。この協業によって2035年までに営業利益ベースで20億円の利益創出を目指すとしています。卸売業が「川上」に対して行う投資としては、極めて踏み込んだ判断です。
飼料のパイオニアであり、
ASC世界初の取得者
ダイニチが持つのは単なる生産量ではありません。同社は1982年にモイストペレット(MP)の研究を開始し、日本で初めてこの養殖用飼料の商用化に成功した飼料開発のパイオニアです。前節で触れた「飼料の技術」を、祖業として持っている企業だということです。
現在はマダイ・ブリ類を中心に、マグロ・カンパチまで含めた魚種を扱い、飼料の開発・製造から養殖、加工、製品販売までを一貫して手がけています。
品質と持続可能性の裏づけもあります。2020年6月29日、ダイニチはグループ会社の内海水産(愛媛県愛南町)とともに、マダイとして世界初となるASC認証を取得しました。ASC(水産養殖管理協議会)認証は、環境保全・資源・労働者・地域社会に配慮した持続可能な養殖を認証する国際規格で、取得までには2年を要したといいます。
自社ブランドの養殖ぶり
「海の匠」
養殖への関与は買収によって始まったものではありません。マルイチ産商グループは大分県佐伯市米水津湾で、「本当においしい養殖魚」を目指して開発した養殖ぶり「海の匠」を展開しています。
特徴は、生産から加工、販売に至るまでの各機能をグループ自らが担っている点です。顧客のニーズを反映した商品化、計画的な生産・販売、効率的な流通を一体で設計できる。前述の「4定」を自社の手で実現する取り組みだと言えます。
販売網と生産技術を掛け合わせる
「メーカー型卸」
従来の卸売モデルでは、仕入れたものをいかに売り切るかが勝負でした。しかし生産と販売の両方を握ると、発想が逆転します。需要に合わせて生産を設計できるようになるのです。
マルイチ産商が持つのは、全国の量販店を中心とした販売ネットワークと、長年培った水産物流通のノウハウ。ダイニチが持つのは、飼料から一貫した生産体制と高度な養殖技術。この二つが噛み合うことで、供給量と品質を自らコントロールし、高付加価値商品を開発する道が開けます。
同社はこの形を「メーカー型卸」と呼んでいます。卸売業でありながら原料調達から加工までの全工程に関与し、顧客に満足してもらえる商品を供給する事業モデル。養殖への踏み込みは、このモデルを生産の最上流まで延ばす動きだと位置づけられます。
養殖を「担当する人」がいる、
素材別のチーム制
養殖への投資は、株式や設備を取得するだけでは機能しません。魚を見て、育ち具合を把握し、売り先に合わせて出荷を組み立てる人が必要です。
マルイチ産商の水産営業は、扱う素材によってチームが分かれています。区分は天然、養殖、冷凍、魚卵。つまり養殖魚は「天然魚が獲れないときの代替」ではなく、専門知識を持った担当者が向き合う独立した商材として、組織の中に位置づけられているということです。
専門性を育てる仕組みもあります。職種別専門研修には産地視察が組み込まれ、生産現場を実際に見て学ぶ機会が設けられています。同社が「メーカー型卸」として掲げるのは、飼育やエサの段階から自社が関与する養殖魚の展開。飼料から関わるということは、営業担当者の側も飼料や生育について理解している必要があるということです。
中期経営計画2030における
養殖の位置づけ
この一連の動きは単発の投資ではなく、経営計画に組み込まれた戦略です。マルイチ産商は2026年度を初年度とする「中期経営計画2030」を策定し、成長戦略として「流通システムの高度化」「グループシナジーの効率化」「未来の収益源構築」「サステナブル経営の進化」「組織の遂行力向上」の5項目を掲げました。養殖事業は、このうち複数の柱にまたがる中核テーマです。
計画では最終年度となる2030年度に連結営業利益50億円を目標としています。養殖で2035年までに20億円という数字は、この成長を支える柱のひとつという位置づけになります。
視野は国内にとどまらない
日本は天然依存が高いと述べましたが、養殖技術そのものは世界に誇れる水準にあります。水産白書は日本のブリ類が世界で圧倒的なシェアを持ち、高付加価値化も進展していると評価しています。
実際、2025年の水産物輸出額は前年比17.2%増の4,231億円で過去最高を記録。ブリは輸出重点品目に選定されています。国内では人口減少により水産物需要の長期的な減少が見込まれる一方、世界では需要と貿易の拡大が予想される。だからこそ養殖業には、国内需要依存型から脱却し「海外から稼ぐ力」を強化する好機があると白書は指摘しています。
ダイニチはもともと北米・香港・タイなどアジア各国、中東へ鮮魚・冷凍魚を輸出してきた企業です。マルイチ産商グループが手にしたのは、国内の安定供給力と海外への出口、その両方だということになります。
安定供給をつくる。
それは社会を支える
仕事でもある
ここまで見てきた通り、水産業は生産方式そのものが入れ替わる転換期にあります。天然資源に依存した供給は不安定さを増し、養殖は「4定」を実現できる安定供給の手段としてその重要性を高めている。国もこれを成長産業化の柱に据えました。
こうした状況を踏まえると、養殖は単なるビジネスの選択肢ではなく、食を支えるインフラの一部とも言える領域です。生産と流通の両方を担う体制を構築することは、安定供給の実現に直結します。マルイチ産商が進める生産への踏み込みは、企業としての成長戦略であると同時に、水産業全体の持続性に向き合う取り組みだと言えるでしょう。
水産営業は産業を動かし、
食の未来を支える仕事
この中で、水産営業の役割も変わりつつあります。仕入れて販売するだけでなく、生産現場と市場をつなぎながら、どのような商品を、どのような形で届けるかまでを設計していく。従来の営業とは異なる視点と責任が求められます。
どの産地と組むのか。どの魚種をどう育て、どの市場へ届けるのか。売り場の計画に合わせて、いつ何をどれだけ出荷するのか。そうした意思決定の一つひとつが、産業のあり方そのものに影響を与えていきます。
マルイチ産商は、社員一人ひとりに求めるものを「挑鮮力」という言葉で表しています。魚の鮮度を保つように、常に新鮮な発想と感性を持ち続けて自分自身の鮮度を保つこと。産地と食卓をつなぐという創業以来の使命を果たすために、社員側もまた変わり続ける——という考え方です。「まず行動してみよう」という気風が根づいているのも、変化に対応する卸売業という仕事の性質と地続きです。
だからこそ、この仕事のやりがいは大きいといえるでしょう。水産営業とは、魚を売る仕事ではなく「食の未来をどう支えていくか」を考え、実行していく仕事でもあるのです。
安定供給をつくる仕事がある。
漁獲量の減少、人手不足、魚離れ──課題が山積する水産業界だからこそ、変革の余地は大きく、やりがいも大きい。水産営業は、産地と食卓をつなぎながら、業界の未来をつくる仕事です。
マルイチ産商では、未経験からでも水産のプロとして活躍できる環境が整っています。まずは仕事内容や先輩社員のリアルな声をチェックしてみてください。
水産業界の課題に向き合う仕事、やってみませんか?
